フロアコーティングの大きな魅力
日本の近代住宅というのは、近代西洋医学のジレンマとよく似ているな。
友人が、隣町の大磯沖で釣れたという目の下一尺モノの鯛をもってきてくれた。
喜び勇んで台所に立ち、まな板の上にでんと乗せた。
反りかえった魚体の頭を左手で押さえ、出刃包丁の刃先、さて、カツオブシを”超乾物“にしないためにはどうしたらいいのか?乾物屋の主人に聞いてみたら、こちらには有効な解決策があった。
かたく絞った濡れ布巾に包んでしまっておく、もしくは、大ぶりの菜つば(キャベツとか白菜のいちばん外側の葉っぱを利用するといい)にくるんでしまっておく。
うちでは、両案の折衷方式で、かたく絞った濡れ布巾にくるんで、冷蔵庫の野菜ボックスの菜っ葉の隣に寝かせてある。
こうすると、カツオブシは、ほど良い湿度を得て、桜色の薄片がシャカシャカとかけるのである。
そして、いま、“使う台所“から”見せるキッチン“へ。
システムキッチンのコピーによれば、〈機能美あふれる個性派キッチン〉は〈高級家具調の優雅さを同時にそなえている〉そうなのである。
さて、鯛の翌日は、豊漁の秋刀魚である。
最新式キッチンのガスレンジに鉄の底板がついた焼き網を二枚重ね、遠火で強火のセオリーどおりに秋刀魚を焼きはじめる。
ガスレンジに滴る脂、たちこめる魚臭。
バーナーにこぼれた脂にガスの火が着火して、一瞬、天井へ届くほどの炎が立ち上がった。
高速回転するプラスティックの換気扇が真っ赤な炎を吸い込みはじめた。
慌ててガスを止め、燃え盛る焼き網の炎を吹き消した。
今度は煙が濠々と立ち昇った。
キッチンの窓の外を換気扇から排出された濃密な白煙が分厚い雲のようにたなびきながら流れて行く。
勝手口のドアを開けると、排気フードに面した隣家の窓が荒々しく閉められた。
鱗を剥ぐ。
三枚におろして刺し身で一杯。
と思ったのだが、あたり一面に鱗が飛び散って、キッチンの床がキラキラと七色に光りだした。
しかたないので大きな鯛を外へ持ち出す。
木枯らしが吹く庭先の下流しで包丁を構えたら、たちまち野良猫三匹に包囲されてしまった。
一九六○年代、ぼくが住んでいたのは両親の家だった。
大正末期に建てられた木造住宅で、天井から裸電球が下がった台所は、十畳ほどのコンクリートのたたきだった。
太い木枠の上に人造石の流し。
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